「遺伝子病」としての「がん」

今まで、「がん」は発症臓器、及び組織型に基づいて診断・分類された後、その分類に従って治療法の選択がなされてきました。しかし近年、「がん」は様々な遺伝子の異常が積み重なることで発症する、いわば「遺伝子病」であることが多数の研究により明らかにされてきました。また、その遺伝子の異常はそれぞれの患者さんごとに異なっているのです。そこで、特定の遺伝子異常を検索し、その遺伝子異常を標的とした個別化治療を行う「がんプレシジョンメディシン(がん精密医療)」が徐々に導入されるようになり、がん治療の概念が大きく変わろうとしています。

ゲノム医療とは、ゲノムを調べ、その結果をもとに、より効率的・効果的に病気の診断ならびに治療などを行う医療です。

  • ゲノムとは?:DNAという物質の中に収められている遺伝情報の全体を指します。
  • DNAとは?:二重らせん構造になっており、4種類の塩基物質(ATCG)でできています。
  • 遺伝子とは?:DNAの中のタンパク質の設計図が4種類の塩基物質(ATCG)でできています。

我が国のがんゲノム医療

欧米においては遺伝子パネル検査が既に医療サービスとして日常診療で次々と導入されていますが、日本の「がんゲノム医療」はまだ欧米のレベルに追いついていません。適応対象となる患者数は全てのがん患者の約1-2%に留まります。そこで当院では、現在実施しているPleSSision検査に加えて、ひとりでも多くのがん患者さんに遺伝子パネル検査を実施できるように、これから手術を受ける全てのがん種の患者さんを対象にPleSSision-Rapid検査を開始しました。この検査は、病理検査の補助的検査として160遺伝子を調べるもので、遺伝性の有無については解析を行わない等、自費診療検査のPleSSision検査とはいくつか異なる点がありますが、臨床研究として実施するため、患者さんの検査費用の自己負担はありません。

一方、日本における「がんゲノム医療」には、もうひとつ大きな問題があります。それは、仮に遺伝子パネル検査によって標的遺伝子異常が見つかっても、現行の保険医療制度の元では発症臓器毎に治療薬剤が決められているために、遺伝子異常に基づく薬物治療を実際に施行できる機会が限られているのです。そこで、当院では腫瘍センターが中心となり、少しでも個別化治療を実施する可能性を増やすために複数の臨床試験を更新して(先進医療B・医師主導治験など)、遺伝子異常に基づく個別化医療を実施する態勢を全国の連携病院と共に構築していきます。その結果、日本のがんゲノム医療の均てん化、すなわち、すべてのがん患者さんが遺伝子パネル検査を受け、自分の「がん」の個性を知り、遺伝子異常に基づく個別化治療を受けられる態勢の構築を目指し、最大限の努力をして参ります。

当院における、がんゲノム医療の取り組み

2018(平成30)年2月に厚生労働省は、がんゲノム医療、すなわち、遺伝子異常を調べて個別化治療を行うために、全国に11か所の「がんゲノム医療中核拠点病院」を認定しました。ゲノム医療中核拠点病院に求められる機能は多岐にわたっており、遺伝子検査に用いられる病理検体の適正な取り扱い、複数の遺伝子を同時に調べる遺伝子パネル検査の実施、エキスパートパネルと呼ばれる専門家会議の開催による正確な遺伝子検査結果の解釈と治療対応、生殖系列遺伝子バリアントの判断と遺伝カウンセリング対応等、幅広い総合力が求められています。当院もその認定を受け、拠点病院・連携医療機関(2019年12月現在)と共にがんゲノム医療の中核拠点病院としての活動を開始しています。