「PleSSision-Exome検査」を国内初導入し、2万遺伝子の解析を可能に

慶應義塾大学病院腫瘍センターでは、一人ひとりの患者さんに最も適したがん治療薬の情報を提供するため、受託解析にて160のがん遺伝子を調べる遺伝子パネル検査「PleSSision検査」(保険診療適応外、自費診療)を実施してきました。

この度、さらなるがんゲノム医療の推進を図るため、ヒトのほぼすべての遺伝子に該当する約2万遺伝子を解析する「PleSSision-Exome検査」を導入しました。この検査は保険診療の対象外の自費診療となり、費用の全額を患者さんにご負担いただくこととなります。この検査では、従来より高い精度でがん遺伝子異常を捉え、治療に関連する情報を効果的に提供することが期待できます。

慶應義塾大学病院では、先行実施しているスクリーニング検査「PleSSision-Rapid検査」(臨床研究として実施中)、既に500症例以上の実績を持つ遺伝子パネル検査「PleSSision検査」に加えて、最先端の高精度検査「PleSSision-Exome検査」を導入することで、幅広くがんゲノム医療を推進する体制を構築しました。今後、一人でも多くの患者さんに、がんゲノム医療を提供できるよう、日常診療内での実施を目指していきます。

1.概要

これまで実施してきた「がん遺伝子パネル検査;プレシジョン検査(PleSSision;Pathologists edited, Mitsubishi Space Software supervised clinical sequence system for personalized medicine)」は、既に国内20以上の医療機関が導入し、500症例以上の実績を誇ります。この検査では、がんの原因となる遺伝子異常(ドライバー遺伝子異常)の検出、薬剤選択に関わる情報の取得により、患者さんのがんの診断や治療に役立てることを目的としています(図1)。

当院では2018年10月に臨床研究「PleSSision-Rapid検査」を開始し、診断・治療のために病変切除が行われたがん患者さんに対して160遺伝子のスクリーニング検査を実施し、30%以上の症例において、何かしらの薬剤の有効性に関わる情報を得ています。

【図1】PleSSision検査の概要



【図2】PleSSision-Exome検査の優位性

この度新たに導入する「PleSSision-Exome検査」は、ヒトのほぼすべての遺伝子に該当する約2万遺伝子(19,296遺伝子)を解析するもので、腫瘍センターの西原特任教授並びに三菱スペース・ソフトウエア社が中心となって共同開発しました。使用する検体はこれまで同様、病理診断残余組織と血液となっており、北海道システム・サイエンス社(登録衛生検査所、ISO9001承認)にてシーケンスを実施します。

この検査では、従来の160遺伝子の検査に比して、臨床的に意義のある遺伝子変異(SNV:single nucleotide variant)の検出は1症例あたり2個程度の増加に留まると想定されていますが、免疫チェックポイント阻害剤の有効性に関わるとされる、遺伝子コピー数の数(CNV:copy number variation)および遺伝子変異数(TMB: tumor mutation burden)については、より高い精度で検出することができます(図2)。このように、受託型臨床検査として、がん組織を対象にした全エクソン解析(注)を実施するのは、日本国内では初めてとなります。

2.検査内容

(1)対象者
この検査は、がん組織から抽出した核酸(DNA)と、血液の正常細胞(白血球)から抽出した核酸(DNA)を比較することで、がん細胞に特異的な遺伝子の異常を見つけるものです。従って、対象者は、医療機関にて病理組織学的検査を受け、悪性腫瘍(がん)と診断されているか、または現在、悪性腫瘍(がん)の治療が行われている患者さんに限定されます(図3)。

【図3】慶應義塾大学病院におけるがんゲノム検査

(2)検査費用
がん遺伝子検査(PleSSision検査/PleSSision-Exome検査)は、保険診療の対象外の自費診療となり、診察料、検査料等、合計約59万円(PleSSision検査)あるいは約100万円(PleSSision-Exome検査)の費用の全額をご負担いただきます

慶應義塾大学病院に入院中は、本検査を受けることができません。(検査の説明を受けた結果、検査を行わない場合には、がん遺伝子検査相談料のみ(税込32,400円)となります。)

(3)予約
受診には全て、現在、がん診療中の医師・医療機関からの紹介および予約が必要となりますので、現在の主治医にご相談の上、予約していただくことになります(図4)

【図4】PleSSision/PleSSision-Exome検査の予約の流れ

(4)必要なもの
・外来受診時には、これまでの治療経過や実施した病理検査の情報が書かれた診療情報提供書が必要となります。
・検査に必要ながん組織は、検査申し込み後にこちらのスタッフが、手術が行われた病院の病理検査室に連絡して対応します

3.検査後の治療について

がん細胞に見られる遺伝子の異常が明らかとなることで、がんの個性がわかる可能性があります。その結果、①治療効果が期待できる治療薬の情報や、②臨床試験(治験)等の情報が得られる可能性があります。但し、保険診療で認められている標準治療が行われている場合は、その標準治療が優先され、遺伝子検査の結果に基づく治療は全ての標準治療が終了した後の選択肢となります。

4.特記事項

「遺伝するがん」(遺伝性腫瘍症候群)に関する結果の開示
この検査では、血液由来の正常遺伝子を同時に検査することにより、遺伝性腫瘍の発症に関連した遺伝子の変化(生殖細胞系列バリアント)が見つかる可能性があります。検査の過程において患者さんご自身およびその血縁者の健康を守る上で、がん関連疾患について重要と思われる結果が判明し、かつ有効な対処法があると考えられる場合には、その病気の専門家、担当医など複数の医師によって慎重に検討した上で、主治医や遺伝カウンセリングを通して開示することがあります。

【用語解説】(注)全エクソン解析:ヒトの全染色体を解析する全ゲノム解析に対して、全遺伝子(約2万)においてアミノ酸をコードしている領域(エクソン)だけを解析することを、全エクソン解析と呼ぶ。これに対して、現在、臨床検査として実施されている遺伝子パネル検査は、臨床的意義のある数十~数百の遺伝子だけを選択的に解析するものである。